熊本は阿蘇市にある滝室窯(たきむろがま)の2代目・石田裕哉(いしだひろや)さん。
先代であったお父さまを早くに亡くし、今はご実家である窯元「滝室窯」を継いでいらっしゃいます。
直接手ほどきは受けていないものの、お父さまが遺したその工房は石田さんにとって使い心地の良いもの。小さな頃に大変そうなお父さまの背中を見て「自分はやらない」と思っていたはずのそのうつわ作りに、今ここで専念されています。
2016年に起きた熊本地震では、滝室窯のある阿蘇市にも大きな被害が。国道は埋まり、空港までは山道のみ。滝室窯にあったうつわ作りの型もほとんどが割れてしまったのだとおっしゃいます。
もともとあった型を、石田さんに作り直していただいた今回。美しい自然のモチーフが揺れる、儚げで優しい石田さんのうつわを、ようやくこの度ご紹介することが叶いました。
■ 儚げで優しい 石田裕哉さんの野の花のうつわ
石田さんのインスピレーションは、みん平焼(みんぺいやき)などの古い古いうつわから。石田さんご自身で調合されるというそのこっくりとした釉薬には、時代を超えて愛されてきた古き良きうつわたちの面影が映りこみます。
儚げに目に映るうつわのその薄さは、ろくろでしか表現できないもの。ある程度のうつわの形をろくろで作った後に、型にのせて模様を写しとる「ろくろ型」という方法で作られているんだそうです。
陶土に1/3ほど磁器土が入っているという石田さんのうつわ。石田さんが調合した釉薬に調和する、程良い艶が出るのだといいます。
<左上から時計回りに>
・地震でだめになってしまった型を、また新たな気持ちで作っていただきました。
・型の上に、ろくろで作ったうつわを乗せて。手加減を調整しながら抑えて、ひとつひとつ形作っていきます。
・ひとさらひとさら、表面まで丁寧に。
・ふっと息を吹きかけて型からうつわを外していきます。
うつわの表面にそっと浮かび上がる模様たち。
引き算が難しく、装飾のやめ時が見つからないこともあると苦笑いをする石田さん。
ご自身のうつわを自宅で使いながら、料理を盛った時の柄ゆきからそのサイズ感までをご自身の目で丁寧に確認する作業を大切にされていらっしゃいます。
「食卓の主役である料理を引き立て、他のうつわとも調和するように」
石田さんが目指したその質感と色を纏ったうつわは、どんな食卓にもしなやかに馴染む存在。
まるで石田さんのお人柄を写しこんだかのような、控えめでありながら優しい佇まいを持つ手仕事のうつわです。
=写真:石田さんご提供 文・宮城 =
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