広い空のある、海の香りがする町に菅原工芸硝子(以降、スガハラ)のガラス工房があります。
昭和7年に東京・亀戸で創業したスガハラ。
50年以上前に自然豊かなこの地に移り、手作りの体温のようなぬくもりを大切にしながら、ハンドメイドにこだわったガラス製品を作り続けています。
その涼やかな美しいガラスの向こう側にいる人たちに会いたくて。
雨上がりの、濡れた葉が美しい梅雨の合間のある日に
千葉県は九十九里町にある工房までお邪魔してきました。
■ 「Sghr スガハラ」のガラスが生まれる場所
ムッと熱気が立ち込める建物の2階にそこはありました。
部屋の中心で絶え間なく24時間365日1400度で熱せられるという大きな窯と、それを囲むように機敏に動く若手から年配の職人さんたち。
その中には女性の職人さんも多く見られます。
窓という窓は全開で、ガラスに当たらないようたくさんの扇風機が職人さんに向けられていますが、建物の中はものすごい暑さ。
働く職人さん達の額には大粒の汗が吹き出しています。
職人さんがデザイナーも兼ねているというスガハラ。
数々のガラスの名品は、日々ガラスと向き合い、語らう、その現場から生まれているのだそうです。
■ ガラスがカタチになるまでの道
1・調合
ガラスは珪砂(けいしゃ)と呼ばれる砂と、ソーダ灰、石灰を主原料として調合されます。
珪砂と呼ばれるのは精製した天然の砂。
同じ場所から同じものを取ってきても、天然のものであるがゆえにいつも同じというわけにはいかないといいます。
2・溶解
本来、窯の中で火種を囲むように配置されている「るつぼ」。
ネコの丸まった背中に似ていることから「ネコつぼ」ともいうそうです。
この中にガラスの原料と工程の中で出たガラスのかけらを入れて、色ごとに溶解するいわば「ガラスの部屋」。
スガハラの大きな窯には10ケものるつぼが入るといいます。
絶え間なくガラスとともに1400度で熱せ続けられるこのるつぼ。
傷むのも早く3カ月毎に交換をするということですが、窯の火を燃やし続ける中での手作業の交換になるのでそれはそれは大変な大仕事なんだそうです。
3・成形
ガラスの成型には様々な方法がありますが、
今回は工房で見ることができた、型に入れて膨らませる「型吹き」という方法をご紹介します。
(1)下玉(しただま)
るつぼに竿と呼ばれる鉄パイプをさし、竿を回しながら赤くドロドロとしたガラスを巻き付けます。
息を吹き込み小さな美しい球体に整えたこのガラスの玉を下玉(しただま)というそうです。
(2)さらに巻き取る
下玉のついた竿をるつぼにさし、再びガラスを巻き取ります。
製品それぞれガラスの量が決められており、下玉の大きさなどによって巻き取るガラスの量を調整しています。
そのさじ加減は、永くガラスと向き合ってきた職人さんの勘によるものだそうです。
(3)型に入れて膨らます
水飴のように柔らかい、巻き取ったばかりのガラス。
重力でたれないように常に竿を指で右へ左へと回しながら、足元にある型の中へ入れてガラスを息で膨らませます。
直接触れることができない、ガラスの厚さをひとつひとつ均一にするのはとても難しいこと。
ガラスと会話することでその感触を感じ取り、ガラスが一番美しいその一瞬を捉えて形にします。
縦のラインと、重なり合うガラスが美しい「シスト」グラス。
重なるガラスの高さや微妙な角度も、ひとつひとつ職人さんの手加減で調整しています。
4・徐冷
型からはずし、堅くなった状態でもまだ500度近くもあるというガラス。
常温のまま放置すると内外の温度差で歪みが生じて割れてしまうため、ゆっくりと動く除冷炉に入れられて、3時間ほどかけて少しずつ少しずつと熱を冷ましていきます。
とはいえ徐冷炉から出てくる時点でも100度はあるとのこと。
その出口からはゆらゆらとかげろうが立ち昇ります。
5・仕上げ
「仕上げ」と呼ばれる作業の中でも、いくつもの工程に分かれて口当たりを徹底的になめらかに仕上げるのがスガハラのこだわりです。
(1)余分な部分を切り離す
ガラスの高さを正確に計り、ダイヤモンドの刃で一周するように入れる傷。
その傷にバーナーをあてるとポコンと余分な部分がきれいに外されます。
(2)切り口を平らに研磨する
切り口を丁寧に削っていきます。
押し当て過ぎても、過ぎなくてもいけない、微妙な力加減が必要とされる工程です。
(3)バーナーで断面を焼く
バーナーで加減を見ながら断面を熱していきます。
研磨した部分を軽く溶かすことで残った角が取れ、口あたりが滑らかになるといいます。
6・検査
完成し洗浄されたガラスを、厳しい基準でひとつひとつ検査していきます。
基準をクリアしたものには、裏面にレーザーで「sghr」とブランドロゴが刻まれます。
通常3日ほどかかるという長い長い旅路を終えて、誇らしく「sghr」のロゴを輝かせるガラスたち。
その向こう側には、ガラスの声に耳を傾けるたくさんの人たちの姿がありました。
次回はその「人」たちについてご紹介したいと思います。
= 今日の書き手・宮城 =
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