気ままな暮らしの向こう側 日々のコラム

【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =

【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。 = 前編 =

懐かしさを感じながらも、どこか異国の香りがするぽってりとしたお菓子のような佇まい。


化粧土(スリップ)をかけて、掻いたり流したりしながら思い思いに模様を描くこのようなうつわをスリップウェアと呼ぶそうです。
中世のイギリスのものがよく知られているそうですが、古くから世界各地で作られているうつわで、なんと日本でも作られているものがあるとのこと。

そんなスリップウェアに魅せられて、空高くヒバリがさえずる5月のある日に日本のスリップウェアの源流とも呼ばれる場所へお邪魔しました。



【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =

【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =


お邪魔したのは日本の六古窯のひとつに数えられる丹波焼の郷、兵庫県篠山市の丹窓窯(たんそうがま)さん。
江戸時代頃からうつわを作られているという、丹波の中でも古い歴史のある窯元さんです。

先々代の6代目丹窓さんの時代には、民藝運動で有名な柳宗悦さん(注1)や英国人のバーナード・リーチさん(注2)も訪れ、リーチさんにおいてはその後日本を訪れるたびに丹窓窯さんの母屋の2階へ宿泊されたのだとか。

1968年には7代目茂良さんが英国St Ives(セントアイヴス)にあるリーチさんの工房を訪れ、数年修行された後にスリップウェアの技術を身につけて帰国されたそうです。



(注1)柳宗悦さん 民藝品を掘り起こし「用の美」を唱えて民藝運動を起こした思想家。 
(注2)バーナード・リーチさん 英国人の陶芸家・デザイナー・画家。幼少時には日本に滞在しその後も度々日本を訪れ、日本民藝館(東京都目黒区)設立に貢献した。



■ 8代目の市野茂子さんにお話を伺いました 



【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =

【A(アンジェ)】
先々代のお名前が丹窓さんなのですね。
丹窓窯という名はそこから来るのでしょうか。


【茂子さん】
著名な書道家の方に丹窓窯と名付けていただいたんです。
もともとおじいさんも利雄という名前だったのですが、丹窓という名に変えて。
娘たちの名前もその書道家の方につけていただいたんですよ。


【A】
このようなスリップウェアはもともとこちらでも作られていたのですか?


【茂子さん】   
いえいえ。
もともとは丹波焼の昔ながらのうつわを作っていたんです。

このようなスリップウェアはバーナード・リーチさんとの交流の中から作ることになりました。
私も渡英し10か月ほどリーチさんに教わりましたが、それを除けばそのような形式でリーチさんに教わった日本人は主人(故・茂良さん)と濱田庄司さん(注3)の息子の篤哉さんの2人のみと聞いています。

ある時、リーチさんと濱田庄司さんがイギリスの織物工房を訪れて食事をとった際に、古い時代のスリップウェアが実際に使われている様子を見て感銘を受けたそうです。
リーチさんの実用的なスリップウェアはそんなところからくるのかもしれないですね。


【A】

さまざまな時代と土地とヒトの想いを介して、今ここに在る技術なんですね。
        
茂子さんはこちらにお嫁にいらしたということですが、もともとうつわも作られていたのでしょうか。


【茂子さん】
嫁入り後に、主人のを見て覚えたんです。

今は長女が毎日京都から通って手伝ってくれています。
若い時はまったく継ぐ気がなかったようですが、今は継ぐことを意識してくれているようです。
        
同じスリップウェアですけれど、やはり私たちの手ですから主人の時よりも女らしいものになりますね。
        

(注3)濱田庄司さん 昭和に活躍した陶芸家。益子焼の発展に貢献した。        



                       
    

■ スリップウェアの作り方を見せていただきました 



窓から入る光が美しい茂子さんの作業場にお邪魔して、実際の作業の風景を見せていただきました。

【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =

【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =
(1)
独自で配合した2色の化粧土を準備し、模様となる色の方をスポイトに入れます。
スポイトの先には生クリームを絞る時のような口金が。



【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =
(2)
素焼き前のうつわをベースとなる化粧土が入ったバケツにどぼんとつけます。
うつわを手ろくろの上へ載せ、化粧土が乾かないうちに回転させながらスポイトで線を描いていきます。

茂子さんいわく、このスポイトの力加減が一番難しいそう。
ちょっと力が入ってしまうと模様となる化粧土が出すぎてしまうのだと仰います。
カップ状のものだと模様が垂れる原因となりやすいため、スリップウェアはプレート状のものが多いのだそうです。



【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =
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(3)
鳥の羽根の芯や竹を細く裂いたもので撫でるようにうつわの表面を引っ掻くと、お店や本で見たあの美しい矢羽根模様が出来上がります。




【 工房訪問 】 丹窓窯さんにお邪魔しました。  = 前編 =

模様がついたうつわは、素焼きして、釉薬を施して、本焼きをすれば完成です。


食卓にのせるだけで温かな気持ちになる丹窓窯さんのスリップウェア。
ながく使えば使うほど愛おしさが増す「用の美」のうつわです。
ぜひ気負わずに、毎日の食卓に取り入れて楽しんでいただければと思います。




= 文・写真:宮城 =




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